異性に対して「ピンとこない」と感じたことはないだろうか。しかし、何となくそう感じるだけで明確な理由は浮かばない人が多いと思います。この作品を読むと、「ピンとこない」の正体が判明します。
『かがみの孤城』で人気の小説家、辻村深月さんの恋愛ミステリー小説。
読者の心に刺さって刺さってくる言葉の数々。恋愛だけではなく、人生の悩みと決断にある根本的な価値観は何なのか。
読んだ後、自分自身を考えさせられる作品です。
作品の概要
タイトル | 傲慢と善良 |
著者 | 辻村深月 |
出版社 | 朝日新聞出版 |
出版日 | 2019年3月5日 |
作品のあらすじ
婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。生きていく痛みと苦しさ。その先にあるはずの幸せー。2018年本屋大賞『かがみの孤城』の著者が贈る、圧倒的な”恋愛”小説。
<朝日新聞出版https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20714より>
ある日、主人公・西澤架と同棲中の婚約者・坂庭真実が失踪します。
数ヶ月前、家にストーカーがいる、と真実が泣きながら電話してきたことを思い出した架は、失踪はストーカーが関係していると考えました。
そして、真実の過去を知るために、彼女の出身地である群馬を訪れます。
傲慢と善良
この作品には、”傲慢”と”善良”について刺さる言葉が多く出てきます。
- 傲慢
「あの子と結婚したい気持ち、今、何パーセント?」
「ー70パーセントぐらいかな」
(中略)
「今私、パーセントで聞いたけど、それはそのまま、架が真実ちゃんにつけた点数そのものだよ。架にとって、あの子は70点の彼女だって、そい言ったのと同じだよ」
これは、架と彼の女友達の会話に出てくるセリフです。自分は何パーセントの気持ちで結婚したかな、と思い出されました(笑)
「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です
値段、という言い方が悪ければ、点数と言い換えても良いかもしれません。その人が無意識に自分はいくら、何点とつけた点数に見合う相手が来なければ、人は、”ピンとこない”と言います。ー私の価値はこんなに低くない。もっと高い相手でなければ、私の値段とは釣り合わない
ささやかな幸せを望むだけ、と言いながら、皆さん、ご自分につけていらっしゃる値段は相当お高いですよ。ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです。」
これは、真実がかつてお世話になっていた結婚相談所の仲介を務めている女性のセリフですが、自分が無意識に持っている”傲慢さ”に気付かされます。
この2つの場面は、作中でも特に印象に残っています。
人が何を思って、他人を求めるのか…..根本にあるものを言い当てているなと感じました。
- 善良
「皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない。ー高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが掴みたいだけなのに、なぜ、と。親に言われるがまま婚活したのであっても、恋愛の好みだけは従順になれない。真実さんもそうだったのではないかしら」
(中略)
「現代の結婚がうまくいかない理由は、『傲慢さと善良さ』にあるような気がするんです
現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、1人1人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、”自分がない”ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います
その善良さは、過ぎれば、世間知らずとか、無知ということになるのかもしれないですね」
これも、先ほどとおなじ、結婚相談所の女性のセリフです。
架は、真実のことを嘘をついたり、打算的なことができない、”善良”な子だと思っていました。しかし、その善良さは一方で傲慢さにもなってしまうのです。
まとめ
”傲慢”と”善良” ”謙虚”と”自己愛”
一見両立しないものが、真実に「自分の意思」がないことで表面化しました。
しかし、これは真実だけに言えることではなく、私達にも共通する部分があったと思います。
仕事一筋に生きる選択、結婚しない選択ー自由に生き方を選択できるようになった現代だからこそ、新しい悩みが増えたのかもしれません。
真実の失踪の全貌が見えるとき、自分自身の生き方を考えさせられます。
ぜひ、読んでみてくだい。
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